技術ラボ便り

各種獣毛に含まれるタンパク質の解析による質量分析法(ペプチド分析)について

獣毛総合研究所 所長 丸茂征也

① ペプチド分析とは
 毛などのタンパク質が合成される際には、DNAの並び順により、アミノ酸配列が決定されます。動物種によってDNAが異なれば、同じ働き(毛、皮膚など)のタンパク質のアミノ酸配列も異なることとなります。各種毛に含まれるタンパク質(1次構造、アミノ酸配列)の違いを質量分析の手法を利用して質量(断片の分子量)の違いに置き換え、検出を行うことをペプチド分析といいます。この分析法は酵素の力を使って毛の中に含まれるそれぞれの種特異的なアミノ酸配列を取り出し、これを質量分析装置にて検出することで、定性、定量を行うものです。

② ケケンが実施している質量分析法について
 ケケンが岐阜大学と共同開発した質量分析法はサンプルより抽出したタンパク質を酵素で消化し、LC/MS(液体クロマトグラフィー/質量分析計)を用いて、その断片を分析します。LC/MSを用いることにより種特異的質量の溶出時間及び質量の2段階でチェックが可能です。更に、もともと定量分析に用いる分析機であることとケケンが開発した独自の補正法を合わせることで、定量性があり、再現性の高い方法となっています。(国際特許出願済)
 また、ケケンが用いる消化酵素は、特にヤクの特異的断片を取り出すのにあらゆる染色加工を経たサンプルでも検出できた実績から選定したものです。(実証例300検体以上)。その検出の安定性とLC/MSを用いることにより、より確実性の高い技術であるといえます。

③ ペプチド分析での分析結果
 質量分析は種特異的な質量の部分を検出しますので、「羊」と定義した種特異的質量が検出されれば羊毛と言えますが、「カシミヤ」と定義した種特異的質量は山羊種についての種特異的質量であるので「カシミヤ」ではなく山羊種であると検出されます。
国内外でペプチド分析が研究されていますが、いずれの方法も(ケケン法も含む)山羊種であると検出されたものは、カシミヤ、モヘヤ、混血種、コモンゴートが含まれる可能性が高いといえます。ペプチド分析での定量分析は可能であるといえますが、最終的に混用されている毛種をカシミヤと特定するには必ず顕微鏡観察が必要です。
 また、この分析は、毛に含まれる成分を分析するので、顕微鏡法とは異なり、間接的な分析と呼べるものです。山羊毛であってもカシミヤであるとは言えないこと(カシミヤは山羊毛の一種類)や、カシミヤであってもヘヤーなど一般的に紡績原料として使用しないようなものもあることから、通常顕微鏡法ではカシミヤと判断しないものまでカシミヤと判断されてしまう懸念があります。
 カシミヤであると特定する方法は、現在のところ、繊維の太さも含めて形状観察を行う顕微鏡法のみです。ペプチド分析は日本工業規格で標準化された方法ではないことから、ケケンとしては、顕微鏡法をサポートする補完技術と考えています。

④ ケケンの獣毛分析について
 ケケンの獣毛分析は、原則顕微鏡法で行い、顕微鏡法では客観的評価が難しいと判断した場合は、ペプチド分析を実施し、その結果を顕微鏡法にフィードバックします。これは、カシミヤを特定するには顕微鏡観察が必須であること、カシミヤの品質をはかる際、有色かどうか、その太さはどうか、ブリーチ等の加工がなされていないかどうか、他の毛が混入していた場合これが化学的処理を実施した悪質なものであるかどうか、などの情報に ついて顕微鏡法でしか評価ができないと考えているためです。
 ケケンでは顕微鏡の試験の信頼性を高めるために国際的な手合せ試験の参加、国内での手合せ試験の実施、生産地での獣毛のサンプリング調査、海外事業所との情報の共有の強化について取り組んでいます。これからもケケンは安心したデータを提供できるように進めていきます。

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