技術ラボ便り

獣毛の新しい鑑定試験技術に関わる特許出願 及び 新しい獣毛鑑定試験(ケケン・岐大式質量分析法)の運用開始予告について

1.始めに
 一般財団法人 ケケン試験認証センター(鈴木一重理事長、丸茂征也獣毛総合研究所、試験技術ラボラトリー所長、以下、ケケン)は、平成19年より、カシミヤをはじめとする獣毛の新しい鑑定試験技術の開発について、岐阜大学工学部生命工学科(西川一八教授、横川隆志准教授、大野敏助教、以下、岐阜大学)との共同研究として進めてまいりました。このたび、この成果について “獣毛の種類を特定し定量する方法”として、平成24年4月10日付で特許庁に対し、ケケンと岐阜大学が共同で特許出願を行いました。また、この技術を利用した獣毛鑑定試験(ケケン・岐大式質量分析法)の運用開始を予定していることをご報告致します。

2.技術開発の背景
 カシミヤは「繊維のダイヤモンド」などと呼ばれ、その品質、イメージが珍重されておりますが、近年世界的な需要の拡大と、他方で地球環境保全問題(カシミヤ山羊が草を根から食べてしまうために、砂漠化をもたらすとされる)、人材不足などから、カシミヤの原料が不足し高騰しております。こうした状況から、一部のカシミヤ製品にヤク(ウシ属)、様々な加工を加えたウールなどのカシミヤ類似繊維を混用する動きが強まっており、これが不当表示につながり、社会問題にもなっております。 現在、カシミヤの鑑定はJIS L 1030に規定されている顕微鏡法により行われており、ケケンが技術開発を行いました。この試験法は、顕微鏡を用い、毛の外観の差異を判別することで種の鑑定を行います。しかし、最近の加工技術の進歩と加工等の影響により毛の外観がおおきく変化した場合や、ブラウンカシミヤとヤク毛など外観がよく似た獣毛は、熟練した検査員でも判別が困難となることがありました。 これらの問題を受けて、最近DNA分析や近赤外分光光度法を利用した鑑定技術の開発が注目されており、ケケンでも確実にヤク毛の混入を鑑定する方法の確立が消費者、生産流通業界に貢献できるものと考え、獣毛由来DNAおよびタンパク質の解析を行い、カシミヤをはじめとする獣毛の新しい鑑定試験技術の開発を岐阜大学と共同で進めて参りました。 共同研究当初はDNAによる手法について研究着手をいたしましたが、特許上の制約や試料(毛)に対して含まれている量が少なく染色加工の影響でその抽出が困難な場合があり、その開発期間の長期化が予想されました。そこで獣毛由来タンパク質の解析にシフトし研究開発を進めて参りました。

3.開発技術の内容
 今回開発を行った鑑定試験方法は、質量分析の手法を利用し、各種毛に含まれるタンパク質(1次構造、アミノ酸配列)の違いを質量の違いに置き換えて検出します。その原理について説明いたします。例えば、ある生物種(a)由来DNAの並び順からはProtein(a)で示されるようなアミノ酸配列のタンパク質が合成されます。同じ働きを持つタンパク質の設計図を生物種(b)から探してくると、DNA(b)で示されるような並び順であり、1文字の違いがあったとします。この場合、Protein(b)で示されるようなアミノ酸配列のタンパク質が合成され、同じ働きのタンパク質であっても、アミノ酸の並びが一部異なるということになります。今回開発した鑑定技術はこのアミノ酸配列の違いを質量の違いに置き換え、種の判定に用いています。
次に鑑定試験の流れを説明いたします。 まず、試料に含まれる毛のタンパク質を薬品で可溶化し、可溶化したタンパク質を酵素処理し断片化します。その後、得られたタンパク質の断片を質量分析し、検出を行います。

実際の試験ではヤク毛に由来する特異的質量の有無を確認することにより、ヤク毛混入の判別を行います。サンプル中のヤクの混入を判別するには、ヤク毛に特異的に検出されることが分かっている判断基準となる質量が有るかということを確認します。これまでの分析により、この判別基準となる質量は、染色加工された製品にも適応できることが分かっています。サンプル(1)の場合、判断基準となる質量が検出されるため、ヤク毛の混入があると判別されます。また、サンプル(2)の場合、判断基準となる質量は検出されず、かつ、ヤク毛では検出されない質量の検出があるため、ヤク毛の混入は無いと判別されます。

適応範囲につきましては、現在までに300以上の試料を用い検証を行ったところ、原毛に限らず染色加工された製品にも適用できることを確認いたしました。これにより、現在判別が難しいとされるカシミヤとヤク毛の定性分析を確実に行うことが可能となり、顕微鏡法による混用率試験の精度の向上を図ることにつながります。  この方法の開発は、ケケンが有する長年の獣毛鑑定での豊富な知識、独自の多方面ルートを活用した原毛採取による確かなデータベースと、岐阜大学の高い研究水準により可能となったと考えております。

4.新しい獣毛鑑定試験(ケケン・岐大式質量分析法)の開始予告について
 ケケンは今回開発に至った質量分析を利用した鑑定試験をケケン・岐大式質量分析法と命名し、当面ヤク毛鑑定試験に関し、JIS規格に規定されている獣毛混用率試験顕微鏡法を補完する方法として、平成25年4月より運用していく予定であります。 なお、技術開発の成果により、順次他の獣毛種の鑑定試験に展開を予定しております。

5.最後に
 これからもケケンは、試験コストの低減、工程の簡略化、さらには獣毛混用率の定量試験など新しい鑑定試験法の開発に取り組み、これら新技術を新規試験規格の提案などに生かすことによって、消費者および業界に貢献し、皆様に信頼していただける試験結果を提供できる様に一層努めてまいります。

6.本件に関するお問い合わせ等は下記までお願い致します。

〒494-0002愛知県一宮市籠屋4丁目14番4号
 TEL0586-45-2631
  一般財団法人 ケケン試験認証センター 獣毛総合研究所

 所長  丸茂 征也

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