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中国チベット地区におけるカシミヤ原毛サンプリングレポート
カシミヤ100%製品などでその品質情報として最も重要と言えるのが混用率です。ケケンでは、それらカシミヤ製品を安心して購入していただくためにカシミヤ100%タグ制度を実施しております。この制度の中でも混用率に対する考え方の比重が大きく、その精度維持向上が常に課題となっており取り組んでいます。
現在、ケケンで実施しているカシミヤなどの獣毛混用率はJIS L 1030-2による顕微鏡です。これは、試験担当者が顕微鏡で製品に使用の毛の種を鑑別することにより混用率を算出する方法です。この方法の精度については、試験担当者がどれだけ幅広く産地ごとのカシミヤの形状、繊度(繊維直径)、繊維長などの特徴を把握しているかが非常に重要だと言えます。
ケケンでは、これらの課題に対応すべく獣毛混用率の業務開始時より、原料を扱う商社、紡績メーカーなどを通じて様々な原毛を入手しデータベース化しておりましたが、データベースに対するトレーサビリティをより確実にするために、2006年よりケケン自らが各産地に赴き動物から採毛を実施しています。このことにより、産地の環境、飼育形態、飼料の情報とカシミヤの毛質などの特徴を関連付けてデータベース化することが可能となり、実際にケケンの担当者が採毛するので、試料に対するトレーサビリティも確保され、ケケンのカシミヤ鑑別の精度維持向上に大きく寄与しております。
これまでの原毛採取及び生産地調査については、中国各地を始め、モンゴル国、キルギス国などカシミヤ、ヤクなどの獣毛の主要な生産地に足を運び調査を行ってまいりました。
今年のサンプリングは、特殊な地区でのカシミヤの産地調査をテーマとしており、今回チベットのナムツォ地区へ2014年6月29日〜7月3日に渡り現地のカシミヤの産地調査及び原毛の採取を行うこととしました。
今回調査を行ったチベットのナムツォ地区は海抜4700mであり、空気が薄く高地適応のために1日以上ホテルで待機する必要があります。長く感じる待機期間を終え、牧場に到着しました。この地区の牧場の飼育形態は、内蒙古などでは砂漠化の影響に配慮し柵などで囲われた中での飼育が多いのに対し、完全放牧の形を取っていました。夜は杭と布で作成した簡易的な囲いの中で過ごすとのことです。気候については初夏に入ろうとしている時期でありながらかなり肌寒く、高地ということもあり良質のカシミヤの毛を産出する気候であるとの印象を受けました。
案内していただいた原毛会社の担当の方の話によると、ここで飼育されているのはカシミヤとヤクがメインでその数は、一つの牧場でカシミヤ70〜100頭、ヤク70頭前後だそうです。また、この地区で取れるカシミヤは、ホワイト、ブラウン、エクリュの色があり繊維直径が14μm台で比較的細く、繊維長は36〜38mmだそうです。ヤクについてはほとんどが有色(ダークブラウン)のものであり、一部ホワイトのものがありますが観光用として非常に重宝されるため放牧ではなく囲って飼育しているそうです。
この地区での採毛は、今年は気温が低く遅れておりまだ始まっていないそうです。通常中国主要産地では早い時期では3月ごろから始まり6月末ごろには終わります。今回、サンプリングの主旨を説明し、特別に採毛していただきました。カシミヤは一般的な産地同様、最初にはさみで外側を覆っている太いヘヤー切り取り、その後内部の産毛を専用の櫛形採毛器で採毛します。
一方、ヤクも同様に採毛をしていただきました。ヤクはカシミヤと違い、時期が来ると自然と産毛が抜け落ちますのでキャメルの採毛と同様、直接手で抜き取ります。
サンプリングしたカシミヤの毛を見ますと、比較的きれいでやはり説明にあったように細い印象を受けました。この原毛について顕微鏡による形状観察や繊度測定などの分析を早速始めたいと考えています。担当の方の話によると、この地区には紡績工場がないため採毛された原毛は、内蒙古などの主要生産地に運ばれるとのことです。
ケケンでは、このように毎年獣毛に対する調査を行っております。今後については、他の獣毛の産地や過去にサンプリングした地区で再度サンプリングを行いその地区での原毛の変化などを調査したいと考えております。これらの活動を継続して行うことにより、試験の精度を高め、獣毛に対する最新の情報を素早く提供できるように努めたいと考えております。
この報告に対するお問い合わせ先
〒494−0002
愛知県一宮市篭屋4−14−4
一般財団法人ケケン試験認証センター 獣毛総合研究所 所長 丸茂 征也
電話 0586-45-2631 Eメール marumo@jwif.org