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第10回:獣毛鑑定者:カシミヤ・インスペクター

 百貨店などの店頭で、商品に「カシミヤ100%」のような表示がついているのはよくご承知のことと思います。

 こうした繊維の混用率は、家庭用品品質表示法で表示が義務づけられており、特にカシミヤ製品など、高価な製品の混用率が正しいものかどうかは、消費者の関心が大変高いものです。

 獣毛製品の混用率表示のための鑑定は、JIS L 1030-2の顕微鏡法を用いて、獣毛の形状を人の目で確認することによって行います。この確認作業は、一定の数値を境に合否を決める、いわばデジタル方式ではなく、顕微鏡により微妙に異なる検体の中から、特定の繊維であることを鑑定者の判断により決める、いわばアナログ的な鑑定をしなければなりません。

 その理由は、鑑定の対象が生き物由来であって変化が大きいこと、顕微鏡による鑑定では検体のデータを数値化することがこれまでのところ不可能だったことにあります。獣毛製品は、工業製品のような定まった技術で画一的に生産されたものではなく、多様性を持つ生き物から採取する毛が対象で、しかもその形状が産地、気象などの生育環境にも左右されるからです。さらに生産途中での加工によって、意図した、あるいは意図しない変化を被る可能性も大きくなります。

 こうしたことから、正しく鑑定するためには、鑑定者に対して高度な経験、知識、技量が求められます。
 その判別の根拠となる毛の形状についても年々微妙に変化しており、熟練した鑑定者でも毛の形状変化についても常に確認しながら、頭の中でデータベース化しつつ経験を重ねる必要があります。
 そこで、我々ケケンでは、様々な原毛産地、製品生産地へ出向き、原毛採取、生産実態を把握し、その知識レベルを最新化する努力を頻繁に行っております。

  以上のような獣毛鑑定を行う高度で多様な知識を持つ専門技術者に対して、7年ほど前から「カシミヤ・インスペクター」資格制度を設けております。
 基本的な知識の習得、鑑定技術の獲得、また、鑑定現場での経験を積み、カシミヤ・インスペクターの資格を取るまでに、最低2年から数年の期間を要します。
 また、これらに加え、訓練の初期段階で顕微鏡観察作業による船酔い状態を経験するなど厳しい訓練が課せられることや、比較的季節性の高い分野であることで依頼数が極端に増える時期があり、正確な鑑定をするための緊張感、眼の酷使などで、インスペクターへの負担が大きいことから、その増員、機械による代替の模索などを追求してきました。
 増員については、時間をかけて徐々に実現を図り、現在ケケンには8名のインスペクターと1名のインスペクター補(最低1年の現場経験でインスペクタに昇格)がおります。
  また、機械による代替は、質量分析、カラー画像取得装置などにより実現を図っており、いずれもこのホームページで紹介しております。

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