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第7回:鑑定の歴史「偽カシミヤ出現の背景と歴史(その2)」

 80年代中期、第一次カシミヤ・ブーム最盛期の頃、産出国取引における一回の契約量は、少なくとも数千キロで、特に大きいロットでは数万キロ単位になることもありました。

 例えば増量用の雑物を1パーセント混ぜると、1,000㎏の「カシミヤ」の1%、つまり10㎏が雑物で、カシミヤは990㎏で済みます。従って、ロットが大きなものは増量のパーセンテージを増やせば増やすほど、儲けになります。
 カシミヤは高価なものでしたので、日本に輸入された原料の品質確認のため、再度検査をする必要性があり、当初は現荷の表面から検査用試料を採取し、ケケンなどの検査機関に依頼がきておりました。
 このように、当初は雑物が原料の全体にわたって混入されていたため、比較的容易に見つけ出すことができましたが、その後、輸出国がいっそう「工夫」をこらし、混雑の範囲が全体から中心部へと移っていきました。
 極端な例としては現荷を開梱して半分に割ったところ、雑物が何層にも分かれて混在していたこともありました。
 こうした雑物がたまたま見過ごされて、その後の工程で判明し、大きな問題となったことがありました。

  現在でも厄介な問題点とされているのは、返品が不可能であるという点です。
 このため、多くの輸入業者は対策として、取引相手に任せることをせず、現地に人材を派遣し、工場などへ出向いて派遣者自身がサンプルを採取し、更に船積み前にサンプリングを実施しておりました。
 こうして採取したサンプル見本を、全て事前検査として検査機関に依頼し、問題がなければ輸入する、更に入荷後に最終検査用として塊の中ほどを含め全体から平均的に採取し、同じ依頼をしていました。
 しかし当時は、できる限りの万全な対策を講じても問題は多々発生していました。
 それは現物のすり替えの問題でしたが、ここではこれ以上の記載が憚られますので、これで筆を止めさせていただきます。

  いずれにしても輸入業者は、日本に到着しコンテナを開いて、カシミヤ原料が確認できた時点で、まずは第一関門をクリアして一安心したそうです。
 カシミヤは高利益が期待できますが、基本的に返品、補償不可な取引が主体のため、高リスクを伴う危険な面もありました。

  ただ、強調しておきたいのは、全てのカシミヤ生産者が悪質なのではなく、上記のことは一部の業者に関わるということです。
 取引相手を間違えると痛い目に会うことは確実で、少しでもリスクを回避するためには信頼関係の構築が必須で、輸入業者の方々もそれぞれが努力され、90年代前半には特に悪質なケースは減少傾向になりました。

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